デジタルトランスフォーメーション(DX)は、企業の競争力強化や働き方改革に不可欠な取り組みとして注目されています。しかし、現場では「思ったよりうまく進まない」「ツールを導入しても定着しない」といった声が多く聞かれます。
この記事では、多くの企業が直面するDX推進の課題と、その背景にある“壁”を解説します。
1. 社内の抵抗感や意識の差
🔸 よくある状況:
- 「今までのやり方で問題ない」と変化を嫌う
- 新しいITツールへの不安・拒否反応
- 経営層と現場の温度差が大きい
🔸 なぜ起きる?
DXは単にITツールを導入するだけでなく、人の意識や働き方を変える取り組みでもあります。とくに中堅社員や管理職層が「慣れたやり方」から脱却できないことが、現場での障壁になります。
💡 どう乗り越える?
- 小さな成功事例をつくり、ポジティブな実感を共有する
- 社員を巻き込むプロセス設計(例:業務改善アイデアの募集)
- 「DXは人のため」という視点で、目的を丁寧に説明する
2. IT人材の不足
🔸 よくある状況:
- 自社にDXを進められるスキルを持った人材がいない
- 外部に丸投げしても社内にノウハウが蓄積しない
- 情報システム部門に業務が集中しパンク
🔸 なぜ起きる?
日本企業では、ITを“コスト”と見なしてきた歴史があり、戦略人材としてのIT人材の育成が遅れている現状があります。社内でデジタル技術を正しく理解し、業務に活かせる人材がいないと、DXは空回りします。
💡 どう乗り越える?
- 外部パートナーと連携しながら、内製化を視野に
- 現場の業務担当者がITスキルを持つ「シチズンデベロッパー」の育成
- リスキリング(再教育)プログラムの整備
「シチズンデベロッパー(Citizen Developer)」とは、専門的なプログラミング経験がない一般の従業員が、IT部門が承認したローコードまたはノーコードのツールを活用して、自ら業務アプリケーションや業務プロセスの自動化を行う人を指します。
✅ シチズンデベロッパーの特徴
- 非IT部門の社員:営業、経理、人事、マーケティングなど、さまざまな部門の従業員が該当します。
- プログラミング未経験者:専門的なITスキルやコーディングの知識がなくても、ツールを使ってアプリケーションを作成できます。
- 業務改善の担い手:自身の業務に精通しているため、現場の課題を的確に把握し、効率化や自動化のアイデアを実現できます。
✅ 活用されるツール
シチズンデベロッパーが利用する主なツールには以下のようなものがあります:
- Microsoft Power Apps:ローコードで業務アプリを開発できるプラットフォーム。
- Mendix:ビジュアル開発が可能なローコードプラットフォーム。
- UiPath:業務プロセスの自動化(RPA)を支援するツール。
- Salesforce Lightning Platform:カスタマイズ可能な業務アプリを構築できるプラットフォーム。
これらのツールは、ドラッグ&ドロップなどの直感的な操作でアプリケーションを作成できるため、非IT部門の従業員でも扱いやすいのが特徴です。
✅ シチズンデベロッパーのメリット
- 業務の迅速な改善:現場の課題を即座に解決するアプリケーションを自ら作成できます。
- IT部門の負担軽減:簡易なアプリケーション開発を現場で対応することで、IT部門はより複雑なシステム開発に集中できます。
- 組織全体のデジタル化促進:従業員が主体的にデジタルツールを活用することで、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が加速します。
✅ 注意点とガバナンス
シチズンデベロッパーの活動を効果的に進めるためには、以下の点に留意する必要があります:
- IT部門との連携:セキュリティやデータ管理の観点から、IT部門のガイドラインに従い、適切なサポートを受けることが重要です。
- トレーニングの提供:ツールの使い方や基本的な開発手法について、従業員への教育を行うことで、品質の高いアプリケーション開発が可能になります。
- ガバナンスの確立:開発されたアプリケーションの管理や保守体制を整備し、組織全体での統制を図ることが求められます。
シチズンデベロッパーは、現場の課題を自ら解決する力を持つ新しいタイプの人材です。適切なツールとサポート体制を整えることで、組織全体の生産性向上やDXの推進に大きく貢献することが期待されます。
3. 部門間の連携不足
🔸 よくある状況:
- 部門ごとに別々のツールを導入していて統一されていない
- 業務フローがサイロ化(孤立)し、データ連携ができない
- DXの目的や方針が各部署でバラバラ
🔸 なぜ起きる?
DXは全社横断の取り組みであるにもかかわらず、部門単位の“部分最適”に留まってしまうことが多く見られます。連携のための基盤が整っていないと、全社的な成果にはつながりません。
💡 どう乗り越える?
- 経営層がリーダーシップを発揮し、全社的なDXビジョンを示す
- 全体アーキテクチャを設計し、部門横断の共通基盤を構築
- 「ユーザー体験」や「顧客価値」を中心に据えて横断的に設計
「アーキテクチャ(architecture)」とは、本来は「建築様式」や「設計思想」を指す言葉ですが、ITやビジネスの分野では、“全体の構造や設計の枠組み”を意味します
✅ IT分野における「アーキテクチャ」とは?
ITにおけるアーキテクチャとは、システムやソフトウェアを構築する際の基本設計や構造のことです。
簡単に言えば、「どうやって全体を組み立てるかの設計図」のようなものです。
▶ よく使われる例
| 種類 | 概要 |
|---|---|
| システムアーキテクチャ | ハードウェア、ネットワーク、データベース、OSなどシステム全体の構成 |
| ソフトウェアアーキテクチャ | アプリケーションの構成、処理の流れ、コンポーネントの分け方 |
| ネットワークアーキテクチャ | サーバー・クライアント・クラウドなどネットワークの設計 |
| エンタープライズアーキテクチャ(EA) | 組織全体のITと業務の構造を統一的に整理・最適化するための設計 |
✅ アーキテクチャが重要な理由
- 拡張性:将来の機能追加やシステム拡大に対応しやすい
- 保守性:トラブルが起きたときに原因を特定しやすく、修正も簡単
- 再利用性:部品を共通化することで、別のプロジェクトでも使い回せる
- 整合性:部門ごとにバラバラの開発をしても、全体の統一がとれる
✅ DX推進におけるアーキテクチャの役割
DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めるうえでは、「全社で使える共通基盤(データ連携や業務フロー)をどう設計するか?」が重要になります。
そのため、アーキテクチャをしっかりと定義しておかないと:
- ツールが乱立し、連携できない
- サイロ化(部門ごとに孤立)して非効率になる
- DXの全体像が見えなくなる
といった問題が起こります。
「アーキテクチャ=全体をうまくつなげるための“設計思想”」です。
ITシステム、ソフトウェア、業務フロー、データ構造など、バラバラな要素を整理し、一つのまとまった仕組みにするための“設計の軸”として不可欠です。
4. レガシーシステムの存在
🔸 よくある状況:
- 古い基幹システムが足かせになり、柔軟な対応ができない
- 改修コストが高く、簡単に置き換えられない
- 担当者が退職し、ブラックボックス化している
🔸 なぜ起きる?
長年使われてきた基幹系システム(ERPや業務管理システム)は、DXの柔軟性を阻む最大の障壁の一つです。「止められないが進化もできない」状態に陥っている企業が多くあります。
💡 どう乗り越える?
- フェーズを分けた段階的なシステム刷新(スモールスタート)
- 外部APIやクラウドサービスとの連携で“逃げ道”をつくる
- 保守と刷新のバランスをとったIT戦略の見直し
まとめ:DXは「技術」より「組織文化」がカギを握る
DX推進で直面する壁の多くは、技術的な問題というよりも“人”や“組織”に根ざした課題です。
どんなに優れたツールを導入しても、使う人の意識や業務が変わらなければ、真の意味でのDXにはつながりません。
だからこそ、課題を一つひとつ丁寧に向き合いながら、
- 経営陣のコミットメント
- 現場との対話
- 社内の学びと成長支援
といった、“人を中心に据えたDX”が求められています。

